ごちゃまぜ浮浪録

新人を脱しつつある肥満薬剤師が薬学部生向けに日頃のあれこれを偉そうに語るブログ

【薬】ラセミスイッチのお話

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/yamamoto/201511/544625.html



薬理化学的に、最近ホットなのがラセミ分離についてではなかろうか。



国家試験の化学では、メソ体、ラセミ体、ジアステレオマー、エナンチオマーといった基礎的な異性体種類にさらに、ハワース式変換、RS命名、DL表記、アキシャル、エカトリアルと組み合わされて出題される。


この辺は、分かりさえすればなんともないのだけれど、
分かっていなければ、全く解けない、化学苦手マンの頭を悩ませるものだ。何せ、丸暗記では対応できないからなw

後日記事のネタが無くなったときに、この辺の見分け方の記事でも書こうと思う。
いやほんと、6年になるまでRSの見分け方がわからなかったとか、口が裂けても言えない。



そのホットなラセミスイッチについてだが、
101回薬剤師国家試験の理論化学で出題されていた。(細かい問題番号は忘れたw)


出題されたのはレボセチリジン。
H1ブロッカーであるセチリジン(ラセミ体)をR体にしたもので、作用の増強が主な目的となっている。


薬物のなかにはラセミ体として製造されるものが多いが、R体とS体で生体内薬理作用に違いがある ことが多い。(物理的性状はあまり変わらない)



セチリジンの他には、
オメプラゾール(PPI
主作用 胃酸分泌の抑制
問題点 CYP2C19の阻害による他薬の動態に影響

→エソ(S)メプラゾール
CYP2C19への影響を軽減させている(無くなるわけではない)

故に、クロピドグレル なんかの薬剤を使うときに
PPIを使わなければならないときは
エソメプラゾールの方が適している
ということになるのかね。


あとは、割と新しい
エスゾピクロン(ルネスタ

苦い睡眠薬でおなじみ、ゾピクロン(アモバン)のS体だ。


薬は苦いものもある。ただそれは、薬を飲むときに苦味成分が舌に触れてしまうからほんの一瞬、そう感じるだけなのだ。

しかしこのゾピクロン、俺もお世話になっていたが、飲んだ後、唾液循環する。


正確に言うと、吸収され門脈から肝臓に行って代謝を受け血中を巡る際に、唾液腺からも分泌される。

これが厄介なもんで、分泌される間は舌から出続けるわけだから、もう苦い。


特に睡眠薬なんて、寝る前に飲んで気付けば朝


なのだから、起き抜けのにがーい感覚は、もう最悪である。

歯磨き
うがい


軽減はされるが、それでも残る。




この苦味を改善したのがルネスタ

完全に出ない


というわけではないのだが、


これからゾピクロン錠のシェアが取って変わられる

かもしれない。


ただ、ゾピクロンとエスゾピクロン。

苦味が変わるだけではないんだよな。


ベンゾジアゼピン系、非BZD系薬について話を膨らませると

俺たちはω1 ω2 と受容体のサブタイプを分けて教えられた(ω1は鎮静、傾眠。ω2は筋弛緩作用である。特にゾルピデムなんかは、ω1選択性で筋弛緩が少ない)

が、今のBZDは
α1
α2 3 5

で分類されるらしい
α1がω1
それ以外がω2とされてきたものなので
以前の知識でもそう問題はなさそうだが


ゾルピデムはα1に選択的であり、
傾眠、鎮静作用が強い。
その代わり、前向性健忘や依存といった副作用は大きい。
一方で、筋弛緩作用がほとんどなく、

ベンゾジアゼピン系薬で問題となる筋弛緩作用はあまり認められない。
この作用があって、高齢者には一般にベンゾジアゼピン系よりも非ベンゾジアゼピン系薬の方が用いられるようである。

ゾピクロンは、ゾルピデムと似ていてα1作用の方が従来のω2作用よりも強めである。


エスゾピクロンは、ゾルピデムとは真逆となり、
ω2作用の方が強い。

つまり、健忘や依存は起こさないが、筋弛緩作用が認められる、従来のベンゾジアゼピン系と似かよった副作用を示す。


また、不眠症とうつ にはかなり患者相関が見られ、実際に俺の周りのうつっぽい人間(twitterのフォロワーだが)は、大抵抗うつ薬に、睡眠薬を併用している。

多くはエチゾラムデパス)のようである。


エスゾピクロンは、α3作用が強いため、抗うつ効果にもエビデンスを示しているようだ。

単なるスイッチ体とはいえ、
使われるパターンが全然違う

というわけだな。



どうでもいいが、カオスな病院実習に放り込まれた俺は、一時期心身症を発症していたのもあり、向精神薬にお世話になっていた時もあった。

それはもう、色々ためしたもんである。

ハルシオンマイスリーデパスアモバン、ロゼレム、ブロチゾラム


ロゼレム(ラメルテオン)は、メラトニンアゴニストということで、国家試験でも最近よく出ているな。
スボレキサント(オレキシン受容体アンタゴニスト)も予備校の模試では多かった。


試した結果だが、超短時間型は若年性には効果が薄い。俺が過体重なせいもあると思うが

ハルシオンは結局 0.375mg でも一度も眠れなかった。

マイスリーはよく効いたな。その代わり、こいつらの半減期は短いので、朝5時とかに目が覚めて大変だった…

デパス は最初のうちは良いのだが、耐性を作るので連用すると用量を増やさねばならなくなってくる…

ロゼレムは、メラトニンに作用するからか、
眠らせる
というよりは正常な睡眠サイクルを作る
方向性らしい。
普段からそこまで睡眠サイクルが乱れていない俺は可もなく不可もなく
という感じだった。

一方、同人誌を作っていてしょっちゅう徹夜をしている友人

は、とんでもなく眠りこけたようだ。
昼に飲んだら深夜まで寝てたとか。
まぁ、メラトニンの量を見かけ上増やす…
夜になってもメラトニンは増えたままなのだから
昼に飲む薬ではねーよなー。


アモバンは、効果そのものはマイスリー以上ブロチゾラム以下って感じだ。
よく眠れるし、6時くらいに起きられる


が……苦い。
QOLは最悪だ。

ブロチゾラム
超短時間型でなく、短時間型だ。

臨床での支持率はあまり高くないようだが、睡眠時間を確保したい

という人には抜群なんじゃないだろうか。

ためしに、昨日残っていたのを飲んだのだが、0時半に就寝 起きたのは8時だった。
おおよそ7時間、きっちり寝られるので、個人的には頼りたい存在ではある。

ただ、持ち越し効果がそこそこあるので、高齢者向けではやはりないかもしれないな。



とまぁ、ラセミスイッチの話をしていたら睡眠薬の話になっていた…