【薬】最近あった業務等々+無駄な話
迷走しっぱなしの当ブログも2周年を迎えました。めでたい。
国試に合格した頃とは頭も中身も(そして腹についた脂肪の量と、健康診断で付く異常値の数も)見違えるほどに変わった。
一方このブログは相変わらずてけとーに運営していくんで。
誰が見てるかも知らないが、中の人のメンタルヘルス具合によって記事が違う、そんな感じなので生暖かい目で見てやってくれ
で、ここ数か月何も書いてなかった気がするのは、やはりトンデモ忙し業務で振り返るヒマも無かったということだ。
政府は面分業面分業と言うが、実際に面分業に介護業務、挙句健康相談まで全部こなしていたら薬剤師はスーパーマンじゃなきゃ回らなくなる。
雇用統計を見れば分かるが、残念ながら調剤薬局の勤務薬剤師は半数以上が出産前後、育児中のママさん達なのだ。
バリバリのサラリーマンとして24時間働けますなマンパワー溢れる20-30代の男性薬剤師の割合なんて、2割居ればいい方だろう。地方にもよるかもしれないが
俺が所属している薬局は何度も書いたことだが、総合病院門前+透析外来+在宅訪問(大規模介護施設含む)を主な業務として取り扱っている。
ここまで書けばそこそこ大きなチェーンかと思いきや、総店舗数が片手で足りる小規模チェーンなのだ。しかも、最も近い店舗まで新幹線で3時間。人手が足りなくなっても借りられない。クソゲーだ。
そんなわけで、忙しさを言い訳にするクソ薬剤師の比較的まともな話を以下に書こう。
直近に実際に起きた疑義の話。
80代 女性
前回受診時処方薬剤
ジャディアンス 10mg 1錠
1日1回朝食後
今回受診時処方薬剤
ジャディアンス 10mg 1錠
フォシーガ 10mg 1錠
1日1回朝食後
比較的分かりやすい処方だが、最近処方頻度も増えてきたSGLT2。
後からこの医師に確認して分かった話だが、HbA1cが高止まりしているのでもっと下げたかったらしい。
処方箋を監査台に置いた俺「オイオイオイ」「死ぬわアイツ(患者)」
SGLT2の作用機序は血中の余分な糖を尿糖として排出するものだ。
作用としては比較的緩慢で低血糖を起こすリスクが低いため肥満型の軽度~中度糖尿病に適しているとされる。
つまるところ、多種類を重ねた所で効果が上がるとは考えにくいし、(尿量が増えるにも限界がある。原尿の量が変わらないのなら、そこに入り込める糖の量は、浸透圧を考えたらある程度限度ができるのも想像がつくだろう)併用は現時点で無意味だと思われるのだ。
まして、この患者は高齢の女性。
SGLT2自体がそもそも合っているのかと言われれば疑問だった。
即疑義をして、無事フォシーガは中止となった。
俺「あ、DPP4追加とかは……しないのね。HbA1cが高いとはなんだったのか」
高齢の患者にSUを行きにくいのは分かる。低血糖リスクが高いし、昨今は認知症のリスクも考えて、新規にSUを出る患者数は右肩下がり。一方で、低血糖リスクの低いDPP4阻害薬が人気で、他には乳酸アシドーシスさえ考慮に入れれば低いリスクで高い効果を得られるメトグルコが第一選択になる。
(腎機能低下例にメトグルコは使えないので忌避する気持ちは分かるが)
この医師、循環器専門らしいのだが……。日々ヒヤヒヤしている医師の一人である。
その2
「はい、今日はお薬一つ追加になりましたね。カナグルっていうお薬です。血糖値高かったんですか?」
患者「いえ……そういうわけじゃ。ただ、むくみがすごいの。先生からむくみを取る薬を出すって言われたわ」
患者は80代女性。併用薬多数。整形外科領域の薬と、血圧、利尿薬を服用している。
追加されたのはカナグル(カナグリフロジン)。
上記と同様、SGLT2なので、血糖値が高いのかと思ったのだ(一方で、患者はやせ型で押し車を使うほど歩行が準困難なほど。あまり適応ではないと思われた)。が、患者がこういうのだから問い合わせをしないわけにはいかない。
ちなみにカナグルの適応は2型糖尿病のみ。もちろん浮腫には適応がない。
ただ、最近の論文でSGLT2の優れた利尿作用が注目されていることは知っていた。
SGLT2を介した利尿作用は、ループ利尿薬と同程度、あるいはそれ以上とされているのだから驚きだ。
作用機序を考えたら、なんとなく納得できることではあるのだが…
ループ利尿薬は、ヘンレ・ループ上でNa+/K+/2Cl-共輸送体を阻害し、Na+とK+の再吸収を抑制することで尿細管内の浸透圧を上げ、強い利尿作用をもたらす。
SGLT2阻害薬は、近位尿細管に存在し、そこで糖の再吸収を阻害する。結果的に浸透圧が上がり、うんぬんかんぬん。
さて、ここで唐突な問題タイム。
利尿薬のうち、どれが一番強いと言われるでしょうか。その理由は?
A.トリクロルメチアジド(サイアザイド系利尿薬)
B.フロセミド(ループ利尿薬)
C.スピロノラクトン(K保持性利尿薬)
正解:B
理由:尿細管のより上位でチャネルを阻害するから
糸球体で濾過されるほぼ99%の原尿のうち、60%が近位尿細管で再吸収を受ける。また、30%がヘンレ・ループで再吸収を受ける。残りの1割を、遠位尿細管と、集合管が担う。
つまり、どれだけ強力で、100%再吸収を阻害しようと、遠位尿細管のチャネルを阻害するサイアザイド系は全体の5%程度しか影響をもたらすことができない。
50%の再吸収阻害能しか持たなくとも、近位尿細管のチャネルを阻害するループ系は全体の15%の影響を出すことができるというわけ。
これが、ラシックスを始めとするループ利尿薬が、利尿薬以外の心不全や高血圧に高い支持を得ている大きな要因だ。
これだけARBやCaブロッカーが隆盛を極めている現代にあっても、ちょっとループを加えるのが隠し味…。
ただし、サイアザイド系やK保持性利尿薬が決して無能なわけではない。
彼らはいわば名脇役。
ループ利尿薬は作用もデカいが副作用もデカい。
電解質の失調を招くという大きな副作用もあるし、(トラセミドはKを保持しながらループを阻害するので低Kが起こりにくいぞ!)
特に連日投与を続けると脱水によりレニンーアンジオテンシン系のアルドステロン分泌亢進→K+低下→再吸収阻害能の低下。
Kが下がるとH+も下がる。アルカローシスにより麻痺やテタニーを生じることもある。
ラシックスの重大な副作用の一つです。
医師による処方管理が十分でない僻地の長期処方や、管理不十分な大規模介護施設でしばしば起きることのある事態。
……ということがあるので、最終的にはループ+サイアザイド+最後にK保持性
と味付けをしていくことで、強力な利尿作用を得ることができるのである。皆でおててつないでゴール。見事なコンビネーションです。
実際、80超えて心不全や高血圧の既往がある患者は、長期に3種利尿薬を服用していることが多い。これはうちが、入院して退院後の患者の継続処方を見る率が異様に高いせいもあるが。
SGLT2の併用はご法度だが、こういう同効薬の併用の仕方もあるということ。
どうだい?薬理を学ぶのが楽しくなってきただろう(ストレッチパワー風に)。
実際に薬理を楽しく学ぶには生物力も必要じゃがの……
話が逸れすぎた。もとに戻そう。
どこまで戻ればいいかって? そうだな……近位尿細管が60%再吸収する、くらいまで。
つまるところ、作用が強力なヘンレ・ループを阻害するループ利尿薬が全体の30%
そして、SGLT2は近位尿細管に存在し、近位尿細管は全体の60%。
なんと、あの最強ループ利尿薬様の2倍だ!シャアには及ばないが
というところまで紐解いて、ああ、それなら分かるよなー
ということである。SGLT2阻害薬は、実は利尿薬だった!!!!!なんてこった!
実際には適応が取れてないので、そういう使い方をする医師はあまり多くないのだと思う。ただ、利尿効果が証明されてきた
ということは、心不全や腎保護作用も期待できるのでは
なんてパターンから、今また新たな研究が進んでいるらしい。どうやら心保護作用についても期待できる数値が出てきそうだし、
腎保護作用については既にジャディアンスが証明している。
そういうことが頭にあったので、実際の疑義では医師が「あー、利尿効果を期待して出してるんですよ」と一言いったところで、「あ、そうなんですね。分かりましたそのままだします」となったわけ。
尤もこの4週間後、当該患者が陰部痛を訴えてくるという展開にはなってしまったのだが、SGLT2の面白い話2連発でした。(面白いか?これ)
利尿作用のくだりについて全くついていけない人が居たら、
腎臓 ~利尿薬の作用機序~|国試対策コーナー ~MedicosField~|e-resident
ここを参考にするといいと思う。
医師、医学部生向けのサイトなので薬学部生には若干蛇足(…あくまで国家試験に対しては蛇足で、本当はそこも含めて理解してほしいけど)な部分が含まれるかもしれないが、よくまとまっていて分かりやすい。
それから、こういう記事で毎回口酸っぱく勧めているのが、日経メディカルなので
是非薬学部生には参考にしてもらいたいと思う。
金取られないし、マジで有用な情報多いし。国家試験だけじゃなく、現場に出るなら網羅しておきたい知識もあったり。
平日は毎日更新されているので、今のうちから会員登録しておくと損しないぜマジで。
今回ちょっと短いけどこの辺で。
もう少し書きたいネタがあったんだが、忙しすぎて忘れた。