ごちゃまぜ浮浪録

新人を脱しつつある肥満薬剤師が薬学部生向けに日頃のあれこれを偉そうに語るブログ

【薬】第103回薬剤師国家試験は難しかったらしい

あけましておめでとうございます(もう3月だが?)



昨年も色々あった。

そして今年も色々あるだろう。

 

少なくとも分かることは、昨年よりも今年はだいぶ成長できた。

それは就職してからも勤務日は欠かさず毎日のトレンドから勉強してきたこと、添付文書とインタビューフォームの読み込みから分かる深い部分での理解、そして学生でなくなっても原著を読み、個人研究すること。

講演会に出ること。学術発表に出ること。

 

時間にしちゃ、そんなに大したことはやってないが、日ごろ意識しなくてもこういうことができたおかげで、業務だけじゃなくて患者、看護師、医師に還元することができているこの頃……だと思っている。

 

もちろん時々やらかしはするが。

 

 

さて…日程も知らずうちに薬剤師国家試験は今年も終わっていたようだ。

まぁ、知らなくても、あの試験は国公立大の二次試験と日程が被っていることが多いから、勤務先が九州大学と近いこともあって学生の学ラン姿を大学で見かけるとなんとなく分かるものだが。

 

速報値を見たところ、99回、100回並に…雑な言い方をすれば手ぬるくはなかった、試験だったようだ。

ここのところの推移をみると、101回が「勉強していれば」新卒にとってはやりやすかったのを除いて概ね合格率60%台というのを見れば、今後もこの辺に造られていくんだろう。

ネットでの吹聴(これをアテにするのはどうかと思うが)を眺めていても、俺がまだ薬学部1年生だったころの、『薬学部は敷居も低い上に国家試験の難易度もゆるい、誰でも金払えばなれる薬剤師』から『入るは安し、出るには努力した者にとっては安し』に変わってきているのかもしれない。

 

ただ、問題をやたらめったら難化させたかと聞かれると、実際に解いてみて、めちゃくちゃ実戦寄りに作られたな、とすぐに思った。

実践領域だけしか全部解いてないが、2日目部分の得点率はちょうど90%だった。

現役の薬剤師なら解けてほしい問題が詰まっていて、逆にこれが解けないようなら現場に出るにはまだ力不足……そういう意味で実力勝負な色合いの強い問題になっていたと思う。

 

もっとも、実習で半年間しか現場を経験しない薬学生と、3年目の俺とでは実務の経験値が違いすぎるから、良問と感じるだけなのかもしれないが……。

 

 

実際の所、職に就くまでは思っていた。

抗癌剤とか、MTXなんて市中薬局じゃ触る機会あんまりないだろうし、それなら汎用性の高い胃腸薬、血圧、血糖、高コレステロール、鎮痛剤……そういう分野の方が使う機会が多いだろうと。

 

が、意外と触る。

総合病院門前のせいもあるが、抗癌剤を触らない日はまずない。麻薬だって触らない週はほとんどない。B肝やC肝なんて限られた存在だと思っていたが、意外にめちゃくちゃ存在する。

 

 

潜在患者数が1000万を超える生活習慣病の薬がもちろん一番よく触る。現に、日本で今一番売れているのは血圧の薬だ。売上ランクには、血圧、血糖降下薬。そして最近では認知症薬が名を連ねる。

だから、それを勉強したのは間違いなかった。ただ、生活習慣病といった慢性疾患は、所謂Do処方が顕在化していて、薬剤師が介入する余地が少ないのもまた事実だ。

 

今回の診療報酬改定で、薬剤師が医師に依頼することにより薬剤の重複や相互作用を防止した事案の点数が引き上げられ、また書面を用いて依頼し、薬剤が減薬された場合においては別途点数が新設される、より密にその職能を果たさなければいけない改定になってきた。

もちろん、利益ベースからしたら、服用薬剤調節支援料(↑のこと)なんてそんな何度も捕れるもんじゃないし、大きなウエイトは占めないし、立場上、そこまで医師に言える薬剤師なんて限られているのは分かっている。

 

ただ、慢性疾患に限らず色んな疾患において網羅できて、かつ医師にも物申せる実力があって、なおかつ患者に面で接することのできる(かかりつけ薬剤師制度)、実力ある薬剤師を養成する足場が整ってきているんではないかと思っている。

 

資格を顔に貼り付けておいて、全国チェーンに青田買いされ、所謂袋詰め師を雇用して枚数と差益で粗利を上げるチェーンが言わずとも改定で締め上げられている(※処方箋の基本料に関わる。別の薬局であっても同じチェーンであれば、全国共通で月XX枚を超えた場合は大幅な減算されている)のはこういうことなんじゃなかろうか。

 

お前らいい加減に医療を食い物にするのやめろよ、と。

頭と言葉で食っていけよ、と。

 

それを暗に、国家試験の段階で示されているんじゃないかなあ。

全国に人事を派遣して、学生の顔も見ずに決められた数だけ薬剤師を買い付ける、そういう場所に勤めるのが悪いとは言わない。全国どこに居たって患者は居るんだから、その場所その場所で全力を尽くせばいいだけなのだ。

 

 

 

なんか説教くさくなった。

とりあえずあれだ、今回既に合格ラインに乗っている学生は、おめでとう。

今回厳しそうで、就職内定先に電話する手が震えている学生は、どんまい。もし内定先から1年頑張って欲しいと言われようと、内定を取り消しされようと、それはどっちでもチャンスだと思う。

もし後者なら、1年分余計に勉強した分をフル活用して面接でアピールしてみてはどうだろうか。

自分、イケます!ってな具合に。

 

 

ーーここから別話題ーー

 

最近マジで忙しくて、ブログの存在すら忘れていた。

ぶっちゃけ、不運にもグーグルで検索して辿り着いてしまった若者がカウンターを回しているんだろう。未だに記事書いてない日でもそれなりにアクセスがあるのだが、真面目に読んでる奴なんていないだろこのブログ。

口悪いし、適当だし。

たまに間違ったこと書いてるし。

 

まぁそんなことはどうでもいいんだ。ある意味で俺のメモ帳みたいな所がある。

業務上、勉強したり、まとめたりした知識をとどめておける手段が他にあるならそうするが、残念ながら今の職場の先輩方はあまりそういう、薬学的知識に基づいたことよりも、いかに日々のルーチンをこなし、その上で患者とコミュニケートを取る方が重要だと思っているらしいので、深い部分で話せる人が居ないのだ。

 

あえて架空の読者を作ることで、頭の中に記憶を作っているんだな、うん。そう思うことにする。

 

 

ところで、問題のある医師が多い我が病院だが、医師も時には失敗することもある。人間だからそれは仕方ない。

ただ、医療職は往々にして、失敗してはいけないのが常だ。

「私、失敗しないので」ではないが、外科手術でなくても、失敗が人命にかかわるのが医療だ。薬剤師だって他人事ではない。

 

MTXの副作用を見過ごして、「様子を見て、次回受診の時に先生に相談されるのをお勧めします」なんて言った日には免許を返納しろと言われても文句は言えないし、分包したメジコンとアマリールを間違えて、患者が運転中に死んだりしたら業務上過失になりかねない。

 

つい最近、グリベンクラミド錠「EE」と間違えて、ドンペリドン錠「EE」が分包されてしまう事件が起きてしまった(監査で引っ掛かったから大丈夫だった)が、これがもし逆で、かつ患者にわたっていたら大変なインシデントだった。

本当、SUは洒落にならない。

興味のある人は上記の二つを画像検索してほしい。マジで似ている上に、バラ分包すると薬の表面がこすれるせいで見分けがつかなくなるのだ。

ちなみにこの二つは、直径が同じ、色も同じ、裏面の印字が同じ、表面の印字が「EE03」と「EE06」である、だけの違いだ。

さすがにこれを同時採用していては、ミスを誘発しかねないのでグリベンクラミド「EE」を採用から外すことになった。

同様の理由で、エチゾラム0.5mg「日医工」とエチゾラム1.0mg「日医工」も採用から外れた。

これは、上記と同じように、色、大きさ、裏印字が同じで、表印字だけが「OS A0.5」「OS A1.0」という違いだけだ。

 

ジェネリック医薬品が隆盛を極める一方で、何も考えずに採用すると、患者に思わぬ不利益を与える可能性が高くなってしまうのは、正直心苦しいところだ。

今や後発医薬品採用率が75%を越えないと、処方箋に対する基本料の加算が貰えない時代になってしまった。最大の点数を取ろうとすれば85%。

患者が先発品を希望すれば話は別だが、多くの薬局は後発品を勧めるだろう。薬価が安くなるというメリットこそあるが、薬効が同じを謳っているのなら、少なくともベネフィットが侵されることは防がねばならない。

 

こういった所は正直、数で押せ押せ、なんでも開発しろのジェネリック会社乱立の弊害だと思っている。少なくとも、ハイリスク薬に関しては他のラインナップとは印字や製造を別にしてくれと思う。

先発品と同じ物を作るのなんて当たり前だ。

 

 

失敗の話でもう一つ。

 

薬にも性格がある。

 

例え同じH2ブロッカーであろうと、SUであろうと、DPP4インヒビターであろうと。

 

カテゴライズで「血糖降下薬」になっていも、

それぞれどんな患者に効果的なのか、

逆に患者によっては効果よりもリスクが高まってしまう薬はごまんとある。

同じ骨格でもちょっとした違いが分子間力を生み、薬理作用に差が出ることは、読者なら分かってくれると思う。

 

性格が特に尖っている血糖降下薬は、それが顕著だ。

 

ここから下はあくまで俺が勝手に作った性格……だが、

 

もっともメジャーなSU薬は、昭和生まれの昔の番長。

腕っぷしが強く、すい臓を叩いてインスリンをカツアゲする。

その効果はてきめんだが、低血糖リスクは高く、ハイリスク患者にとってはQOLを下げる一因になってきていることから、近年では一線を退いている。

使うにしても少量使いながら他薬併用するのが一般的。

SUの中ではグリベンクラミドは心臓に持病がある荒くれもの総長で、グリメピリドは頭のキレる若旦那、といった感じ。

上にある通り、高齢になればなるほど大量に使うのは避けたいが、昔からある薬なので漫然としたDo処方で、10年前60歳で飲み始めてから70歳になっても用量が変わらない人も居るとか。

 

SUと似たグリニド系薬は、小柄なボクサー。

作用機序は似ているが、1日複数回投与で血糖値スパイクを緩やかにする分、どちらかというとまだ使われやすい方かもしれない。

α-GIとは仲が良い。

 

ビグアナイド薬は、30過ぎたおっぱいの大きなお姉さん(なんでや!)

ビグアナイドといってもほとんどはメトグルコに限定される。

インスリン抵抗性を抑え(頑固なアラフォー親父も巨乳には勝てない)、高い血糖値降下性を持つ。なおかつ、安い薬価。(20代のホステスよりも経験値は豊富だが、コスパは良い)

ただし、腎機能の落ちた高齢のじいさんには要注意!(遺産を丸ごと持って行かれるかも……)乳酸アシドーシスという重大な副作用は今年の国家試験でも出たが、健常成人にはかなり低率。ハイリスク患者には禁忌で、eGFR30以下には使用できない。

今生、糖尿病になるくらいなら血液検査もしているはずで、eGFRを見ない医師なんて今時ほとんどいないと思いたいが、検査によってはクレアチニンしか出ず、数値上正常低値でも、体の小さく高齢なじいさんは補正をすると実はeGFRが下がっている場合も多いので、薬剤師なら必ず注意すべき。

それから、ヨード造影剤による一時的な腎機能低下例に注意しないといけないし、脱水時にはハイリスクとなるので、夏場、激しい運動をしている趣味の人には要注意。あと、利尿剤、SGLT2を服用しているならそれもチェックすべき。

 

α-GIは短距離走選手。

食後の過血糖に強く、走りされば何事も無かったかのようにそこには居ない。

低血糖リスクは低いが、他の血糖降下薬と併用する場合は低血糖時にショ糖が使えないのは注意。

アカルボースはアミラーゼも抑える、100m200m万能なウサインボルト。ただし、併用薬(リレーでのバトンパスは不得意…)には注意。アミラーゼの入った薬(市販薬にもある…)飲むと意味が薄くなる。

ボグリボースは副作用の少なく安定感のある日本の山縣、桐生。

ミグリトールは若く、色んな可能性を持つが副作用も高いケンブリッジ飛鳥。トレハロースを阻害するため下痢をしやすい。一方で、元々慢性便秘がある人にはこの副作用もベネフィットになるかも?

 

dpp-4阻害薬、インクレチン薬は頭脳明晰な優等生。

低血糖のリスクが少なく、状況に応じてその能力が変わるため、今一番トレンドになっている。メトグルコに追加する際の第一選択薬になりつつあり、そのためかメトグルコとの合剤も近年発売されている。

ジェネリックが発売されておらず、慢性期においては患者のコストが大幅に増大してしまうのがネック。週1回の投与で済む薬剤もあるため、長期的に見れば良い…?のかもしれない。

なお、リナグリプチンとテネリグリプチンはeGFR低下例でも用量調節しなくていいのがさらに優等生度合いを含めている。ただしリナグリプチンは便中排泄80%、テネリグリプチンは便中排泄50%で、若干変態度合いがある。天才は変態と紙一重(なんのだよ)

 

ピオグリタゾンはメトグルコお姉さんの親戚。

作用機序は異なるが、インスリン抵抗性を改善する部分は同じ。

体液貯留の方向に働くため心不全には使えない。(同じく、高齢のじいさんにはあまり向かない)

 

SGLT2薬は鳴り物入りの新人ルーキー。俊足巧打で高校通算〇〇安打と名が付く開幕前が一番盛り上がる新人紹介と一緒。

血糖降下のパワー自体はさほど大きくない。尿糖に血糖を出すため、低血糖のリスクは低いが、逆に言えば血糖として巡っている分に直接働きかけるわけではないため、安打性の当たりと俊足で3月、4月に打率3割を残すタイプ。一過性ではあるが体重が少し落ちることもあって、軽症の肥満型患者に特に使えるが、尿路感染を起こしやすい女性には使いづらいかもしれない。

 

 

こういう、同効薬でも性格をイメージすれば覚えやすいし、使い方の理解が深まると思う。逆に言えば、セオリーに反した治療はリスクばかりとって意味が無いのだ。その意味の無い治療をやっていたせいで患者を憂き目に合わせた事例がこの間あったのだが、それはまた別の話で……。