第102回薬剤師国家試験が終わったようで+ 【日薬】甲状腺機能低下症への指導
今年も国試が終わったみたいだな。
直後の下馬評では、
第100回よりは取りやすく、第101回よりは取りにくい
という話を聞いた。
去年ギリギリ落ちた俺の同じ研究室だった友人も
今年は5%ほど得点率を上げて合格点に達したようだ
尤も彼はMRとして就職したので
勉強する時間は予備校の浪人生と比べると少なかっただろうけど
それでも、その得点率を聞いた感想は「必死に1年浪人して頑張ってもそれくらいしか上がらないんだな」と
思った
現役中に講義に来る予備校の講師の話をほとんど聞いてなかった俺だが
「現役が一番伸びる、浪人生は最初は点数高い状態だが、秋過ぎから現役に抜かれていく(模試)」
という話をよく覚えている
実際俺は10月に受けた最初の模試で171点、
最終的な本番の試験では280点
5か月で110点伸びたわけだけど
学校という環境の中で、6年間に染み付いた学力は意外と否定できない
その環境から外れた浪人生は、全部自分でなんとかしないといけないわけだし、厳しい戦いを強いられる1年になるんだな
実際、統計でも現役の合格率の方が浪人生よりも圧倒的に高い
現役が一番チャンスがあるのは数字が示している
後、国試の合否で一つ興味深いのは
大学の卒業試験との相関
私立の薬学部なんかは合格率でモロに人気が左右されることが分かっているから
明らかに不合格の点数しか取れない生徒は卒業試験で落とすことになる
特にボーダー間際の人間は必死に卒業試験を乗り越えようとするのだが
うちの大学では本試・再試共に合格点(65%)に達せず、かつ合計点が全体の下位20%の奴を不合格として、
その中で卒業認定するかどうかを教授会で判断するらしかった
そして、第101回の薬剤師国家試験の現役合格率は86%であり、
この下20%を落とす、という目論見は
概ね当たっていることが分かる
卒業試験で涙をのんでいた同研究室生も数人知っているが
今更ながら振り返ってみると、
彼らは卒業できていても合格するのはかなり難しかったのではないか
と思う
要するに現役で頑張れない奴にはもう難しい時代になってきているんだろうな
と、話は変わって
日常の投薬から記事のネタにする時間だ
今日は甲状腺機能低下症について
甲状腺機能低下症の原因は様々なものがあり、
老化や遺伝、自己免疫性、それから外科的に甲状腺腫等で摘出したり、放射線治療を行った後に見られる。
が、原因の多くは橋本病(≒慢性甲状腺炎)である。
橋本病の男女比は1:20以上で圧倒的に女性に多く、20代後半から40代に好発する。
機能が亢進すると、体温上昇・体重減少
機能が低下すると、高脂血症などに陥りやすくなる。
実際、レボチロキシン(チラージン)を服用している患者がスタチンを服用するようになることは多い
治療法としても、ホルモン補充療法が一般的だ
で、レボチロキシン自体は甲状腺ホルモンとして働くため、そのままホルモンを補う形で作用する。
ちなみに、甲状腺ホルモン(T3-トリヨードチロニン・T4-チロキシン)
もまた、国試でよく頻出のものである
生物と薬理が複合しやすいため、1日目2日目共に狙って出されることが多い
なお、生体内での活性はT3>>T4であり、T3の多くは末梢でT4から合成される。
なので、製剤としてもT3ではなくT4をよく使う。
T3では強すぎるためだ。(一応T3製剤も存在するが、長期投与には向かない。どちらかというと緊急性の高い場面で使用されるようだ)
TSHによって合成が調節され、TSHは負のフィードバックを受ける。
そのため、異所性の腫瘍や、甲状腺腫によって、甲状腺ホルモンに関わる病態は異なるので
それぞれTSHとT3/T4がどう高値/低値を示すのかも覚えておく必要がある。
甲状腺ホルモンを増やす形になるので、心疾患の患者や、高値高血圧の患者には慎重投与となるが、
基本的に長期安定した患者にはあまり服薬的アセスメントが低い部類になる。
一応気を付けるべきは、吸着薬のコレスチラミンや、透析で使用するホスレノール・フォスブロックといったもので、
あとはワーファリンくらいか。
なので、チラーヂン単独使用の患者には、副作用が出ていないかのチェックと併用薬のチェックが基本……
と思っていたのだ。俺は。
ところが昨日、半年ほどチラーヂンを服用している患者から質問をされた。
「甲状腺の病気って、海藻絶対食べたらダメって、友達から聞いたんだけど、私わかめの味噌汁大好きなのよねー、食べちゃダメかしら?」
うっ。確かに海藻類にはヨウ素が比較的多く含まれるため、甲状腺への影響が深い食品である。しかし甲状腺機能低下ということは、ヨウ素による亢進はむしろプラスなのか?チラーヂンの用量にも関わると思うが…(脳内の葛藤)
こういった生活指導や食品との兼ね合いは、高齢になればなるほど、医師には相談しにくいそうで、先生には言ってないんだけど……と前置かれる人が多い。
そもそも一重に甲状腺機能低下といっても、医師がどういう基準でチラーヂンを出しているのか薬剤師には分からない。だから断言はできなくて、(医師に聞いた方がマストなのだろうが、多忙の医師にこんなことを電話で聞こうものなら罵倒されて終了である)次回診察時に医師との相談を勧めるのが手一杯だったりする。
仮に適当なことを断言して見当違いの疾患だった場合
アッー
なことになるのは俺である。
ということで無知を猛省して勉強することにした。
甲状腺機能亢進症の患者では、ヨウ素を多く含む海藻類は控えるのが確実である。理由は言わずもがな…
甲状腺機能低下症で、薬物療法を行っていなければ、ヨウ素の補充に海藻を摂取するのは勧められる。
ただし、ヨウ素を摂取しすぎると甲状腺の機能をさらに低下させることに繋がるため、大量の摂取は禁物である。
では、実際にどこまでがOKなのか。
アメリカでは、ヨウ素の耐用上限量を1.1mg/dayとしている。(成人)
多くの諸外国も、これに倣って、概ね1mg/dayとするようになっている。
国によってはヨウ素は体に害なため、食品規制もされている。
そのため、ヨウ素欠乏から、食品添加物やサプリメントでヨウ素が存在するほどである。
ちなみに、食品添加物としてヨウ素を添加することは日本では認められていないため、これらを使用した食材は日本には輸入できない。
ただし、日本においてはこれらとは真逆であり、
日本成人のヨウ素摂取量は3mg程度と試算されている。(1mgという結果もある。)
また、日本人には遺伝特異的に、ヨウ素への耐性が高く、諸外国を大きく超える量を摂取しても甲状腺腫に掛からない、とされている。
まあ、昔から味噌汁にワカメ、昆布出汁を摂取してきた人種だから、なのだろうか
2010年の厚生労働省食事摂取基準によれば、耐用上限量は2.2mg/day とされているので、この記事ではそれを基準に計算することにする。
これを見ても、海藻類のヨウ素の多さは圧倒的である。
食べる量を考えても、海藻だけに絞って考えた方がよさそうだ。
まこんぶ(素干) | 240000μg | 生わかめ | 1600μg |
ほしひじき | 47000μg | ほしのり | 1400μg |
こんぶの佃煮 | 11000μg | めかぶわかめ(生) | 390μg |
あおのり | 2800μg | ところてん | 240μg |
焼きのり | 2100μg |
これはさっきのページからそのまま引用したものだが、含有量はug/100gである。
分かりづらいので、mg換算すると、
こんぶ100gに240mg
ひじき100gに47mg
のり100gに2.8mg
わかめ100gで1.6mg
めかぶ100gで0.4mg
といったところになる。
これから換算すると、まず健常成人であっても、こんぶは1日1gでも毎日摂ると摂りすぎである。ひじきだと毎日なら5gでキツい。
甲状腺に影響を与えると考えれば、この二つはさすがに避けた方がいいと指導するのが無難か。
のりは100gもバリバリモシャモシャ食う奴なんていないだろうから、5gで換算すると0.14mg。
わかめは味噌汁に入れたら20gは食うだろうか?それなら0.32mg。
めかぶや、それ以外は考慮しなくて良さそうだ。
少なくとも、健常成人であれば、わかめの味噌汁や、ご飯と一緒に食べる程度の海苔なら、毎日3食摂取しても問題なさそうではある。
ただ、甲状腺機能低下症の患者を考えると、毎日OKというのは言いすぎか。
しかし、こんぶとひじきさえ避けてもらえれば、たまに食べる分には影響も少ないだろう。
後は、定期的に血液検査を受けてもらい、高値を示すようなら控えてもらう……感じで良いのではないだろうか。
こんぶの場合は、出汁に使用してもヨウ素が出汁に出るそうなので、スープの出汁にはかつおぶしか、いりこ辺りで我慢してもらうことにしよう。