ごちゃまぜ浮浪録

新人を脱しつつある肥満薬剤師が薬学部生向けに日頃のあれこれを偉そうに語るブログ

【薬】新規IBS便秘薬-リンゼス(リナクロチド)の話。

だいぶ間があいてしまったが、久しぶりに薬理の話。

 

 

今年に入って販売が承認された、新しい便秘薬リンゼス。

 

うちの病院でも採用になり、入ることになった。

適応は便秘型IBS

 

IBS過敏性腸症候群だ。

現代のストレス社会、IBS型の疾患を持つ人は多いらしい。

 

かくいう俺も、学生時代は下痢型のIBSに悩まされ、特にストレスのかかる試験とかそんなので、電車の中で下痢に腹を抱えたもんだ。

 

そんな時、アステラス製薬のMRから、イリボー(ラモセトロン-下痢型IBS治療薬)を勧められて著効したのを機に、少しばかりアステラス信者になった。

 

話は戻り、リンゼス(リナクロチド)は、グアニル酸シクラーゼアゴニスト、

国試で言う所の、cGMPを増加させる役割を持つ。

 

腸管上皮においてグアニル酸シクラーゼ(以下、Gc)が結合すると、cGMPが増加し、

腸管においてはクロライドイオンを放出する。

これにより、浸透圧で水分を腸管内に分泌する度合いが亢進するために

カチカチになっている便秘に特に著効するというわけだ。

 

また、求心性神経にも働きかけ、cGMPが増加することによって疼痛が減少するとのこと。

 

便秘薬はここに来て様々な選択肢が増えてきている。

簡便な大腸刺激性下剤。内服

・センノシド

・ピコスルファート(刺激性のほか、水分吸収阻害作用もある)

・大黄(主成分はセンノシド)

 

頓服の意味合いが強い直腸刺激性下剤

・ビサコジル(商品名;テレミンソフト。坐剤)

グリセリン(いわゆる浣腸ね)

・炭酸水素ナトリウム(商品名:レシカルボン。こちらも座薬)

 

効果はマイルドで調整が容易な浸透圧性下剤。

・酸化マグネシウム(塩類下剤)

・ラクツロース(糖類下剤)

 

腸管運動改善薬

・大建中湯(含有生薬のニンジン、カンキョウ、サンショウが腸の過敏を抑え蠕動運動を正常にする)

・宮下菌、ビオフェルミン(腸内の善玉菌を増やす。便秘にまずこれだけ出ることは少ない)

 

腸管内水分分泌

・リンゼス(リナクロチド):上記で書いたので省略

・アミティーザ(ルビプロストン):クロライドチャネルアクチベーター。腸管のクロライドイオンを増加させる。以下同文。

 

 

リンゼスはこの一番下に該当。

アミティーザも結構新しい薬だが、見て分かる通り作用機序は似通っている。最終的にはクロライドチャネルから水分を引っ張ってくる所が一緒。

ただし、リンゼスはまだ慢性便秘症の適応を取っていない

 

 

便秘薬もこれだけ増えてくると薬剤師国家試験で狙われやすくなるかも。

ただでさえ、便秘薬と止瀉薬は作用機序がごまついていてごっちゃになりやすいので

スリードを誘った問題文が作りやすい。

漢方と整腸剤はともかくとして、上記の大腸刺激・直腸刺激・塩類下剤・水分分泌性下剤のカテゴリーは覚えておいて損はない。

大腸刺激と直腸刺激がごっちゃになるってやつは、直腸刺激は商品名とくっつけて、坐薬で覚えてしまった方が楽だ。

 

この辺の薬で国家試験で狙われやすいのは妊婦禁忌薬。センノシド、アミティーザはいずれも禁忌なので注意。

同じ刺激性下剤でも、ピコスルファートは禁忌ではない。

よく使われるのは酸化マグネシウム

 

 

 

そして、このリンゼスは発売されたばかりなので添付文書も貧相なのだが、

先日リンゼスを他院で処方中の患者(高齢。女性)にアミティーザがうちの門前から出るってことがあった。

 

上に示したように、同じような作用機序の上、アクチベーターとアゴニスト、相加的に作用する可能性があるだろうから、あまり併用してもリスクばかり高くてベネフィットは低いと思われるので、併用はしないようにと言った。

 

ところがどっこい、本人は相当便秘に悩んでいたらしく(2つ以外にもマグミット1日1g、センノシド1日2錠)全部一緒に飲んでしまったようだ。

 

その日から下痢になり、あわてて薬局に電話を掛けたらしい。言わんこっちゃない…

 

恐らく保険上も通らないだろうし、併用注意にでもなるのかなー。わからんなー。

便秘強い人には2剤3剤の併用が当たり前なので、

下剤同士で併用注意になることはないんだろうけど

 

実例を持って併用はやめたほうがいいという経験になった。