ごちゃまぜ浮浪録

新人を脱しつつある肥満薬剤師が薬学部生向けに日頃のあれこれを偉そうに語るブログ

【薬】トラムセット

随分とご無沙汰になってしまった。




忙しい上に、風邪で今年はじめて寝込んでしまった。


まあ、学生時代はしよっちゅう体調不良で欠席をしてた俺だから、


新卒8ヶ月無遅刻無欠勤なのは快挙とも言っていい



今日も偶然休みの日だったから、欠勤にはなってないしな。




ところで、近況だが。


11月13日に、福岡マラソン2016が行われた。



このブログの命題のひとつ、走るということ




当然、フルマラソンだったわけだが、



道中折り返しで脚が吊り、その後すぐに両足が吊ってまともに走れなくなるアクシデントこそあったが、


4時間27分で完走できた。



目標は3時間台だったのだが、まあしかたない



芍薬甘草湯でも用意していけばよかったぜ




まぁともあれ、今後もマラソンには挑戦していきたい



その前にしっかり痩せることだろうけど。





んで、最近あったこと。



病院薬剤師であれば、患者の腎機能をチェックして投薬することは当たり前になっている。


特に、透析科のある病院ならなおさらだ




薬学部ではほとんどやらなかった気もするが、




腎機能による用量調節は高齢化の進んだ今、必須項目でもある。



肝機能は基本的に病名として肝臓病とつくものなら



禁忌になる、あるいは慎重投与がほとんどなのだが




腎機能の場合は細かく数値と状態によって行えることが違ってくるので



医師も薬剤師も神経を使わねばいけない部類だ



もっとも、薬局薬剤師のほとんどは



患者の腎機能データを得ることは難しいし、
よほどのことでなければあまり腎機能をもとに疑義照会をすることはない



が、今回偶然にも、うちの門前で透析を受けている患者が、外来で処方をもらいにきたため、そのケースがあった。




例1 透析患者への痛み止め

透析患者さんAさんは、事故による追突で頸部の痛みを訴えて受診した。

Aさんは透析を週に3回受けており、腎機能はccr10未満、定期処方での痛み止めは出ていないものとする。

処方はこちら


ワントラム錠 100mg 1錠 朝食後
ナウゼリンOD錠 10mg 1錠 朝食後
10日分


透析を受けている病院と同じ病院にかかっているため、カルテで医師は透析しているということを分かっているはずなのだが、よほど強い痛みがあったのだろう、ワントラム(徐放性トラマドール)を処方した。

ちなみに、鎮痛剤の第一選択はNSAIDSと呼ばれる
ロキソニン(ロキソプロフェン)やセレコックス(セレコキシブ)だが(基本的に外傷疼痛であればセレコックスが選択されやすい)


慢性疼痛、長期的に使用されるものとなるとこのトラマドールが選択肢に入ることになる。
トラマドールとアセトアミノフェンを配合した、トラムセットも汎用されている。

神経障害性であればリリカ(プレガバリン)や、サインバルタ(デュロキセチン-SNRI)にも手が及ぶ。


一般に、NSAIDSよりもトラマドールの沈痛作用は強い。
ガン性疼痛にも用いる、オピオイド型の沈痛剤だからだ。


故に副作用も強い。
それに、沈痛剤の大半は腎代謝型であるため、(特にNSAIDS)
腎不全患者への痛み止めは、本来慎重にならざるをえない、のだが…



当然ながらこれは疑義照会の対象となった。

そもそも添付文書がワントラムの重症腎不全患者への投与を禁忌としているのだが…


電話で聞くと、透析患者≒重症腎不全患者という考えではなかったようで、やや喧嘩腰に反論されてしまった。


もっとも、腎不全患者には禁忌でも、透析または無尿患者には禁忌でない、というものが存在するから、この医師の考えは間違いではないのだ

腎不全患者への投与が禁忌の理由として、代謝が遅延した結果、さらなる腎機能の悪化を招くから、というのがその理由だ。

透析している以上、腎代謝機能を透析機器に依存しているのだから、そもそもこれ以上悪化しようがないのだ

例として、NSAIDSがこれに当たりやすい


代謝の遅延したNSAIDSは腎機能を悪化させるが、透析患者においては用量調節をそれほど必要とされない。


ただ、トラマドールは話が異なる。
包合され、腸管循環する特性を持つため、透析患者においても用量調節を必要とする薬剤なのだ


そして、ワントラムは徐放性。

トラマドールの普通薬であるトラマールは、投与間隔をあけることができるがワントラムはそれが不可。

だから禁忌になっている。


という旨を説明したら、
じゃあ、トラマールで出すわ。


と、丸く?収まった。


ちなみにトラマールでも、用量調節をしないといけない。




で、これが話題になった翌週、今度は透析科でトラムセットが処方された。


添付文書上では禁忌となっているが、実は過去にも処方歴があったため、医師に問い合わせる前にメーカーに問い合わせた。


するとやはり、透析でトラムセットを使うのは割と普通なそうで、CKDガイドラインによると、用量調節をして用いるとのことだ。

ただ、欧米ではccr10未満の患者には推奨されないとなっているため、


完全に医師の考え任せに近い。


なので、どうしても出す場合は、健常人の25%まで。

トラムセットは8錠がMAXなので、


透析患者には2錠、それも朝夕分2で、ということだ


改めて患者の処方を見たらなるほど、1錠分1だった。



うちの門前の医師は正直かなり疑義照会をする頻度が高いので、いちいち疑わなければならないが、
この透析科の先生は非常に用量調節には厳しく見ているので、こちらが後から納得することが多い。




何にせよ良い勉強になった。

ちなみにトラマドールもNSAIDSも透析では除去できないので


投与してしまって毒性が出てからでは遅いんだよね。



たぶん、薬剤師国家試験においては


毒性・解毒法の分野で問われることがあるかもしれない透析性。


薬物の中には透析で除去できるものとできないものがあり、除去できる毒物は透析で除去することがある。


ちなみに透析性に関わる要素として
分子量
たんぱく質結合率
分布容積

などがあり、

賢い薬学生なら

どれがどうなると透析されやすいのか、


分かるよな。



たんぱく質結合率が高いと、透析は血液を機器に通して回すわけだから、たんぱく質に結合した薬剤までは完全に除去できない。

分布容積が大きいと、薬物は血漿より組織に移行しているため、除去率が下がってしまう。

ちなみに脂溶性が高いほど分布容積は大きくなりやすい性質を持つ。


何が分布容積が大きいか、小さいか。
代表的な薬物がここで浮かばなかった奴は今すぐこんなブログ閉じて勉強するんだ